当初、この婚姻の話はロランへと向いていたらしい。レグルスはそのまま、ウィスト公国の解体作業にあたり、その後はロランが引き継ぐという方向へと向かいそうになった。しかし、ロランは己が大公の娘と結婚するのは嫌だと言い切ったのだ。最初にウィスト公国を任されたのはレグルスである、だから己が娘と結婚する謂われはないと。性欲剤
そして、ルトの言うとおり……正妃のいる兄は除外され、レグルスへと話が舞い込んできた。皇帝は渋々、レグルスと息女の婚姻関係を命じたのである。
形式上はレグルスがウィスト公国に婿入りするということになる。よって婚儀は、花嫁の祖国であるウィスト公国で行われることになった。レグルスとその部下、従者、側近のルトは、彼女を伴って船に乗り込み、かの国へと向かっているのだった。当初は婚儀に出席するのは叔父のはずであったが、ロランがどうしてもと駄々をこねたらしく、皇帝もそれに負け、今に至る。
レグルスはロランの癖のある金髪をくしゃくしゃに撫でまわして言った。
形だけの、結婚だ。
恐らく名義上の、妻。
それは魔女である彼女も思っているに違いない。
レグルスは彼女の立場を利用して国を治め、彼女は国家が消えない為に……国民のために結婚を承諾した、それだけのことだ。
他に何の繋がりも持たぬ間柄に、はたして名など必要なのか。
適当に、優しくすればいい。そして彼女の信用をある程度得て、彼女には奥深くに閉じ籠ってもらい、公式の場のみ出てきてもらえばよい。
役目が終われば離縁状でも叩きつけてやればよいだけの話だ。
何の為に、魔女の名を知る必用があるというのか。美しい魔女の名を呼ぶことで何かが変わるとでも?
「ふーん、政略結婚だから、別に名前なんて知らなくてもいいって思ってるんでしょ?」
「分かってないな、ロラン。名前は睦みあう時にしか呼ばぬものだ。お互いの立場上な」
口の端を釣り上げて返すと、ロランはふわっと笑った。
彼女は淡々とロラン自慢の笑みを受け止めた。
落ちない女はいないと言われたほどの笑みなのに、である。
「あなたのような綺麗な方に僕の顔を覚えていただけるとは、光栄です」
「三日以上は御尊顔を拝見しておりますので」
長い睫毛を伏せ、彼女は答えた。ロランは一瞬きょとんとし、それからまた笑みを深くする。
「これは、参ったな……。あなたの青く美しい瞳は常に伏せられていたから、僕の顔など見ていないのかと思いました」
「高貴な方のお姿を、この卑しい瞳に映すことは本来許されぬことでしょう。申し訳ございません」
あれほど見事な、吸い込まれそうなほどの青い瞳を自ら貶め、彼女は言った。魔女は、やはり変わった女だと思った。
やんわりとした魔女の拒絶――レグルスにはそう映った――をさして気にも留めていないのか、ロランはその笑みをたたえたままだ。花痴
